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Public Diary


2012-02-12

[MBA][講義メモ] 交渉のABC

交渉とは、2人(またはそれ以上)の参加者が、何を与え何を得るかを決めるためのプロセスと言えます。交渉においては、お互いが相手の決定に依存している面がある中で、自分の利益を最大化させる必要があります。交渉では、利益の衝突は当然発生します。しかし優れた交渉者は、一つの交渉を、綱引きのようにどちらかが勝ちどちらかが負けるというものではなく、両者が自分の利益を得られる場に変えることができます。そこで必要となってくるのが交渉のABCです。

A: 情報の収集(Acquire information)

「何が欲しいか」から「なぜそれが欲しいか」へ。

単純な交渉の例として、カップルがレストランを決めるプロセスを見ます。女性が日本食レストラン Kamakuraを希望しているが、男性はイタリアンレストラン Biaggiに行きたい、という場合を考えます。男性側の立場からすれば Kamakura はお金もかかるし(注:アメリカでは日本食の方が高い傾向にあります)行きたくありません。こういう場合、どうすれば良いか。我々は、この手の交渉につくとき、女性の Kamakura という希望は変わらないものとして考えがちです。こういう前提に立ってしまうと、お互いが自分の選択の良い点を挙げ、相手の選択の悪い点を挙げ、交渉は平行線を辿ってしまいます。しかし、女性になぜ Kamakura に行きたいのかを聞いてみると、雰囲気の良さや場所を理由に挙げるでしょう。もしかすると、実は二人の何かの記念日が近く、それを祝いたいのかも知れません。この場合、女性は必ずしも特定のイタリアンレストランを求めているのではなく、雰囲気が良く、若干高めのレストランを求めているので、これらの要望を満たすレストランであれば、Biaggi である必要はありません。このように、情報を引き出し、相手の「なぜ」(why; 英語では interes という言い方がより適切です)を知ることにより、相手の当初の「何を」(what; 英語では position)を変えることができる、というのが交渉のAです。

また、交渉の場において相手の要望を聞き出すだけが "Acquire Information" ではありません。交渉のテーブルにつく前から、周辺情報を集め、提示できるオプションを可能な限り増やしておくことも重要です。また、交渉相手が what にこだわらず why ベースの議論に乗れるよう、交渉相手を説得するのもこの部分に入るでしょう。

こうした情報の入手のためには、協力的な態度(collaborative tone)が必要で、また、個人的なつながり(ゴルフの話から入る、など)といったテクニックも有効ですが、単に仲良くなるだけではなく、情報入手という目的を忘れないことが重要です。

B: パイの最大化(find the Biggest pool of resources to share)

交渉においてもっとも大事なのは、小さなパイを取り合うのではなく、パイを最大限に拡大してから取り分けることです。パイを十分に拡大できれば、自分の取り分が増えるだけではなく、相手の取り分も増え、お互いに利益を得ることができます。ここで、交渉のAで得られた情報を活用し、互いに「何が欲しいのか」から「なぜ欲しいのか」にシフトし、互いの利益を守りつつパイを拡大させるのです。ここで重要なのは、論点を一つだけに絞り込まないこと。譲歩しやすいよう、複数の論点を設定するべきです。

ただし、人は合理的な判断を下せないということに注意が必要です。その典型例が「ダラーオークション」(dollar auction)です。これは、1ドル紙幣のオークションで、もっとも高い金額を提示した人がその紙幣を入手できるだけでなく、2番目に高い金額を提示した人も胴元にその金額を払わなければならない、というものです。たとえばAとBという参加者がいたとして、Aが15セントを提示すれば、Bは20セントを提示する、…といった形で、あるとき提示額が原価たる1ドルを超えます。しかし、途中で放棄すると1セントも貰えないどころか損をしますので、相手よりもわずかに高い金額を提示し続けるしかありません。結果、気がつくと「止めようがない」ところまで行ってしまうといったものです。過去、クラスでダラーオークションをやってみたところ、400ドルまで跳ね上がったそうです(しかも、所持金を超えるビッドを出してはならないという条件付きだった)。実社会では紙幣をオークションの対象とすることはありませんが、ペニーオークションのように、当初は破格の金額からスタートするオークションで気がつくと市場価格よりも遙かに高い金額で落札してしまうのも同様の心理のようです。また、途中まで開発費をつぎ込んでしまって後には退けなくなって破綻するまで開発し続けたコンコルドの話も、同様の話と言えるでしょう。ダラーオークションにおいて最も合理的な判断は、このゲームには参加しない、です。

また、別の例として、AとBという2人の子供に20万ドルの財産を生前分与するとき、「遺産分割の割合はAが決める」「Bはこれを承諾するかどうか決める権利がある」「Bが承諾しない場合、遺産は全額寄付され、A・Bとも遺産は受け取れない」といったようなケースも挙げられました。たとえばAが19万ドル取る提案をした場合、Bの取り分は1万ドルとなります。このとき、Bは拒否すれば手取りは0ドル、承諾すれば不利ながらも1万ドルもらえますから、Bが十分に合理的であれば承諾するはずです。ところが一般的に、Bは拒否する傾向にあります。様々な説明が可能そうですが、今回の授業では、これはBの「プライド」という無形の価値の問題(intangible issue)とし、こうしたところまで含めて価値を最大化するのが交渉の秘訣だと言います。

C: 取り分の合理的な主張(Claim your share of that pool of resources for yourself)

交渉において、一方が「妥協」しなければならない状況は、決して「勝つ」側にとっても良い交渉とは言えません。なぜなら、「負けた」側にとってはハッピーエンドではなく、次回以降必ず挽回の手立てを探ってきて、お互いに報復の繰り返しになるからです。

そこで重要になるのは、客観的な判断基準です。そのため、交渉のBで拡大したパイが誰の目にも明らかで、その拡大分を自分の取り分とすることが相手の損失にならないことを示す必要があるでしょう。また、多少の損失になったとしても全体のパイが増えているのであれば、協力関係(alignment)によって相手が譲歩してくれる可能性もあるでしょう。

つまり、自分の取り分を主張し相手に飲ませる(=交渉のCを実行する)ためには、交渉のAとBを満足に満たしている必要があるのです。

まとめ

  • 「価値の創出」は、交渉における成功の秘訣。
    • 価値を生み出すほど自分の取り分を主張しやすいから。
    • 価値の創出と主張のためには、情報を引き出すことが重要。
  • 「alignment」は、影響力のために必要。
    • 協力的な態度に始まるリーダーシップによって達成される。

感想

これは結構自分の経験上なるほどと思うところがあって、多国間交渉において日本はパイを所与のものとして捉えがちだけど、本当はそのパイを拡大してから(あるいは、別のゲーム理論の授業に従えばゲームのルールを自分に有利なように変えてから)みんなで仲良く取り合うことが大事なんだなぁということ。確かに、アメリカの政府代表団なんかは、結構そういう手を使ってくることが多くて、「世界のためには○○が重要なんだ!」とか言っているのを日本は「あーまたカッコつけちゃって」と横目に見ることもあるけど、それは日本も「そうだそうだ」と言ってパイを拡大するのが本当は良いのかも知れない。まぁ、予算の問題とかもあって実際の交渉はここまで単純ではないですけどね。


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